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1940年早春のアメリカ。
 ワシントンの郊外にある旧家、ファレリー家では18年振りに欧州から帰国する娘のサラのための出迎えの準備に忙殺されていた。サラはドイツ人の夫クルトと3人の子どもを伴って帰ってきたが、実はクルトは半生を反ナチ運動に捧げた闘士であり、南米の同志から運動資金を集めるついでに、永い闘争で傷ついた体をしばらく休めようとサラの実家を訪れていたのだ。しかし、そこにはルーマニアのブランコヴィス伯爵もファレリー家に先客として滞在していた。伯爵はクルトが反ナチの指導者であることをかぎつけると、彼の所在をドイツ大使館へ売りつけようとして…。
 現在この国では、再びこの国を戦争の出来る国にするための力が公然と働き始めている。この夏の参議院選挙はその意味では重要な国民の意思表示の機会であった。しかし、結果は再軍備を支持するという方向が出てしまった。しかし、我々は忘れてはいけない。あのナチスドイツのヒトラーも、ドイツ憲法に依るちゃんとした選挙で時代に登場したことを!
 安保法案反対で一大運動を展開した若者達のシールズは数日前に自主解散したが、その時若者達の指導者はこんな言葉を残した。
 「民主主義に観客席はない!」
 痛烈で重い言葉である。我々の祖父母達や親達は、わずか70年前に不本意であったにも拘わらず夫や息子や孫を日の丸の旗を振って歌を歌って戦場に送り出したのである。そして、そんな風に見送った夫や子どもが白木の箱に入って帰って来た時、「よくやった」と悲しい芝居を演じて見せるしかなかったのだ。我々日本人はまだこの300万人もの人を殺した時代を本気で総括していない。シールズの若者達の「民主主義に観客席はない」という言葉は確かに重いし、我々はこの言葉から逃げてはいけないと思う。
 「ラインの監視」はそのような時代の観客席に逃げないで歴史の傍観者である事を拒否した人々の愛の物語だ。人は誰しもその生きた時代に責任を持ち、観客席で傍観してはならない。それが民主主義ではないかと若者達は云っているのだが、私達は芝居者の心意気としてこの作品で応えたい。そして多くの観客と共にこの美しい作品を創りたいのである。